神経内視鏡・間脳下垂体
脳神経外科手術は顕微鏡を用いた開頭術が一般的ですが、私たちは内視鏡を使った手術も行っています。下垂体病変に対する内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術や、内視鏡を使った水頭症手術、脳内の血腫除去術などがあります。
多くの診療科において低侵襲を追求した内視鏡手術が広く行われています。脳神経外科領域においても従来の顕微鏡手術に加え、内視鏡手術が発展してきました。私たちは内視鏡を駆使した治療を行っています。脳神経外科領域で内視鏡手術が最も発展しているのは下垂体病変に対する経鼻手術です。脳下面の中心に下垂体という部分があります。下垂体は脳の一部ですが、ホルモンを産生する非常に重要な内分泌臓器です。正常に分泌されなければ命に関わるホルモンも含まれています。
下垂体腫瘍に対する手術は内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術(経蝶形骨洞手術)といいます。広島大学病院で経蝶形骨洞手術を初めて行ったのは全国的にも早く、1978年5月1日でした。それから40年以上の歴史があり、中国四国地域のなかでも下垂体疾患を専門に治療する病院として地域に貢献してきました。広島県のみならず、他県からも多くの患者さんをご紹介いただき治療を行っています。2022年現在、これまでに下垂体腺腫だけで1,500件以上の手術を行っています。近年の光学機器の発展は目覚ましく、内視鏡はフルハイビジョンから4Kとなり、さらに2Dから3Dの時代へと変化しています。経蝶形骨洞手術も従来の顕微鏡手術から内視鏡手術へ、手術適応は下垂体腺腫から頭蓋咽頭腫や髄膜腫まで拡大し、鼻から頭蓋内の腫瘍も摘出するようになりました(拡大手術)。それに伴って手技は進化し手術難度は高くなっています。脳神経外科手術のなかで内視鏡を用いた経鼻手術は特殊な手技ということもあり、専門的に治療を行っている施設で治療を受けることをお勧めします。
当院で経蝶形骨洞手術を受けられる場合、約2週間の入院となります。手術数日前に入院して頂き、術前検査や麻酔科診察を受けていただきます。手術は全身麻酔です。手術当日のみベット上安静ですが、手術翌日からは歩行可能で、トイレや洗面は自分で行えます。手術当日夜あるいは翌朝から食事が出ます。手術日からかぞえ7〜8日目で退院できることが多いです。
私たちは脳神経外科専門医ですが、下垂体はホルモンを産生する内分泌臓器であることから、日本内分泌学会にも所属し、内分泌代謝科専門医も取得しています。下垂体病変の治療は手術を行えばいいというものではありません。手術前、手術後のホルモン分泌機能の評価、必要なホルモン補充療法についての知識は必須です。また、疾患によっては内科的治療(薬物療法)が有効な場合もあります。手術と薬物療法の両方の長所と短所を理解し、最適な治療を提供できるよう努めています。さらに下垂体病変の治療は他の科との連携が必要です。内分泌代謝内科・耳鼻咽喉科・小児科・産婦人科・眼科・麻酔科・放射線治療科など様々な科の協力も得ながら治療を行っています。
内視鏡を使った手術は下垂体病変以外には、水頭症手術や脳内血腫除去術があります。いずれも内視鏡の特性を生かし、従来の手術では得られなかったメリットがあります。それぞれの手術手技を簡単に紹介します。
手術手技
内視鏡下経鼻的腫瘍摘出術(経蝶形骨洞手術)
鼻の穴から道具を挿入します。鼻腔内の粘膜を切開し、蝶形骨洞内に到達します。頭蓋骨の底の骨を削除し、腫瘍を少しずつ摘出します。摘出後は自家骨を用いて頭蓋骨の穴に蓋をして、正常な粘膜で手術部を覆います。外からは傷が全く見えませんので、見た目には手術したことが分かりません。
内視鏡下第三脳室底開窓術(非交通性水頭症手術)
約3cmの皮膚切開を行い、直径1cmの穴を頭蓋骨に設けます。径0.5cmのシースと内視鏡を脳室内に挿入します。第三脳室底に穴を開け、新たな髄液の流れ道を作ることで、水頭症を治療できます。腫瘍がある場合は同時に鉗子で腫瘍をかじり取り、腫瘍の種類を正確に診断することもできます。
内視鏡下脳内血腫除去術
約3〜4cmの皮膚切開を行い、直径1cm強の穴を頭蓋骨に設けます。径1cmのシース内に内視鏡と吸引管を挿入し、血腫を吸い取るようにして摘出します。