Treatment

診療グループ

外傷

脳神経外科では、高度救命救急センターと協力し、頭部外傷を24時間365日積極的に受け入れています。外科的治療が必要な場合は、迅速に開頭血腫除去術、脳室ドレナージ術、減圧開頭術を行います。術後は頭蓋内圧モニタリングを積極的に取り入れ、体温管理療法をはじめとした神経集中治療を行って早期回復を目指します。また、重症多発外傷の場合は、救急集中治療科をはじめとして、整形外科、外科、心臓血管外科、形成外科、放射線診断科などと連携を取り、救命率の向上を目指しています。

退院後も外来での画像検査を定期的に行っていきます。また、高次脳機能障害が残存した場合は、リハビリテーション科と協力しながら、退院後のサポート、日常生活、社会生活に復帰に向けた支援を行っていきます。

頭部外傷の原因、年齢分布

道路交通法の改定、道路交通環境の整備、自動車の先進安全技術の導入などに伴い、頭部外傷は年々減少傾向にあります。一方、高齢化社会により転倒や転落による頭部外傷が問題になっています。

当院で治療を行った頭部外傷の年齢分布を提示します(図1)。20歳代前半、40歳代前半、70歳代後半でそれぞれピークを迎えています。国内の複数施設のデータを集積した日本頭部外傷データバンクのデータと比べると、40歳代でやや多い傾向にありました。

また、当院における受傷原因の多くは交通事故ですが、60歳以降では転倒・転落によるものが増加します(図2)。近年は、高齢者の歩行時の転倒や脚立からの転落事故が増加しています。また、高齢者では、高エネルギー外傷の割合が低いにも関わらず、若年者と比べて転機が不良となる傾向にありました。

図1

図2

当院では、主に以下の疾患について検査・治療を行っています。

  • 急性硬膜下血腫
  • びまん性脳損傷
  • 頭蓋骨骨折
  • 急性硬膜外血腫
  • 脳震盪
  • 外傷性髄液漏
  • 外傷性脳内血腫、脳挫傷
  • 慢性硬膜下血腫
  • 高次脳機能障害

急性硬膜外血腫

頭部外傷により、頭蓋骨と硬膜との間(硬膜の外側)に血液が溜まったもの(血腫)を言います。頭部に強い力が加わることで頭蓋骨骨折を生じます。頭蓋骨骨折によって、その直下にある動脈(中硬膜動脈)や静脈(静脈洞)が損傷され生じることが多いです。10〜30歳代の若年者に多く発生します。

血腫によって脳が圧迫されることによって症状が出現します。典型的な症状としては、受傷直後は無症状で経過するのですが、数時間後(約半数は3時間以内)から意識が悪くなることです。その他にも頭痛、嘔吐、けいれん発作など症状は多岐にわたります。

診断は頭部単純CTで行います。頭蓋骨直下に凸レンズ型の血腫が見られるのが特徴です。血腫は、2時間以内に74%、2〜7時間で23%の割合で増大すると報告されており、受傷後は入院の上で厳重な観察が必要となります。

血腫量が多く、脳を強く圧排している場合は、早期に手術(開頭血腫除去術)を行います。血腫量が少ない場合は手術を行わず、自然に消失あるいは減少するのを待つこともあります。

図3
頭部CTでは前頭骨に線状骨折を認めました(矢印)

図4
急性硬膜外血腫の術中所見。CTと同様に骨折線を認めます(矢印)

急性硬膜下血腫

外傷により脳表と硬膜との間(硬膜の下側)に貯留した血腫を言います。頭部に強い力が加わることで、脳と頭蓋骨が衝突します。脳実質や脳表の血管が損傷を来すことで血腫が出現します。主に前頭葉と側頭葉に多く見られます。

血腫によって脳本体が圧迫されることによって症状が出現します。血腫量が多いと、早期から意識障害を来し、生命に関わってきます。急性硬膜下血腫を来した場合の死亡率は54.5%に至るとの報告もあります。

診断は頭部単純CTで行います。頭蓋骨に接した白い三日月型の形状を取ることが特徴です。

血腫量が少ない場合は手術を行わず様子を見ることもあります。血腫が厚く(厚さ1cm以上)、脳への圧迫が強いことが推測される場合は、早急に手術(開頭血腫除去術)を行います。脳の腫れが強い場合は減圧開頭術を追加します。手術後は、集中治療室にて、血圧、呼吸、体温に加えて厳重に頭蓋内圧を測定しながら治療を行っていきます。

図5
正中偏位を伴う右急性硬膜下血腫を認めます

図6
開頭血腫除去術後。血腫は取り除かれ、術前に見られた正中偏位も改善しています

急性硬膜下血腫の頭部CT。自宅内で階段から転倒され、意識レベル低下を来しました。

外傷性脳内血腫、脳挫傷

脳へ直接外力が加わることで、脳の血管や脳自体に損傷を来した状態です。時間とともに出血や損傷周囲の脳の腫れが進行することがあります。多くの出血は24時間以内に止血しますが、周囲の腫れはその後も継続し、意識状態の悪化につながることもあります。

症状は軽度の意識障害を呈したり、その他挫傷の部位に一致した局所症状が見られたりします。

診断は頭部単純CTで、脳の損傷を確認します。出血部分は白く、腫れが強いところは黒く映り、我々は“salt and pepper”(塩と胡椒)と表現することもあります。特に受傷6時間以内は、血腫や腫れが時間とともに変化するため、定期的なCT検査が必要となります。

治療は、CT所見や症状、脳圧の状態を見ながら手術の適応を判断します。血腫が増大傾向にあり、症状が段階的に悪化、脳圧が急激に上昇する場合は、外科的治療を考慮します。重症の脳挫傷の死亡率は44%、退院後自立した生活が可能となるのは約3割と報告されており、予後の悪さが指摘されています。

図7
受診時の頭部CT

図8
受傷翌日の頭部CT。受傷24時間で、血腫の増大と周囲の腫れが著明に認められました

脳挫傷の頭部CT、2mの脚立から転落して受傷されました。

慢性硬膜下血腫

受傷時は、頭部CTで異常なく無症状の場合でも、その後脳表と硬膜との間(硬膜の下側)にゆっくりと血液が貯留することがあります。3週間~2カ月くらい経過してから、徐々に症状が出現してきます。高齢者に多く発症し、70歳以上が65.2%を占めるとの報告もあります。

主な症状としては変動する意識障害、運動麻痺(歩行がおかしい、ふらつく)、頭痛、認知症状などがあります。

診断は頭部CTで行われます。頭蓋骨に接して三日月型の形状を取ることが多いです。

意識障害や運動麻痺などの症状が見られた場合は手術を行います。手術は局所麻酔による短時間の治療で、術後は症状の改善が期待できます。再発率はおおよそ10~20%といわれています。

慢性硬膜下血腫の頭部CT

図9
受診時の頭部CT

図10
術後1週間目の頭部CT

1カ月前に、転倒して頭部を打撲されました。意識障害と左半身麻痺で受診されました。

穿頭洗浄術を行うことで症状は改善し、1週間で自宅へ退院となりました。

重症頭部外傷における取り組み

当院では、重症頭部外傷に対して、二次性脳損傷を最小限に抑えるために、救急集中治療科との協力のもとに積極的な神経集中治療に取り組んでいます。小児から成人まで全ての患者さんを受け入れています。頭蓋内に手術可能な血腫がある場合は、まず外科的処置により血腫除去術を行います。術後は、頭蓋内圧の管理を中心に治療を行っています。鎮静、鎮痛、呼吸管理を基本とし、頭蓋内圧センサーや脳室ドレナージを挿入し、厳密な頭蓋内圧の測定を行います。また、体温管理療法も取り入れ、患者さんのより良い回復を目指しています。また、集中治療室入室時よりリハビリテーションを開始し、拘縮予防や早期離床を図ります。高次脳機能障害が認められた場合も、リハビリテーション科と協力しながら、社会復帰へ向けた取り組みを行っていきます。

ページトップへ戻る